寄白さんは山田のど真ん中を狙って投げた。
三投目で真っ向勝負にでたようだ。
なんてチャレンジャー。
変化球を使わないで己の速球のみで勝負するピッチャーみたいだ。
他の球種はないってことか。
寄白さんの豪速球は空を切り山田のもとへ。
どんどんガチャガチャが伸びていく。
山田は寄白さんのコールドスプレーのアイシングがないからデッドボールを受けた頬をさすったままだ。
――ぶはっ!!
山田は体のど真ん中でガチャガチャのカプセルを受け止めた。
まあ、これもデッドボールといえばデッドボールなんだけど。
寄白さんなにげに制球乱れてるじゃん。
山田はさっきから歓喜んでるし体のなかに妖精が寄生してるとしたら衝撃で飛び出てきたりしないのか? 寄生していた妖精が山田の体から排出れば目的は達成なんだけどな。
「で、で、で、でしゅー!!」
「美子。だめかもしれない」
社さんが、そっと寄白さんの肩を掴んだ。
「雛。なにがだ?」
「おかしい……」
「山田はあんなに喜んでるぞ?」
「彼が執着していた相手が変わった」
そ、それってやっぱり校長から啓清芒寒に目移りして、また校長に戻ってくるのはおかしいってこと? でも啓清芒寒のメンバーは校長に似てる娘だけど。
現実でも「推し変」とかはよくあるし。
だとしても妖精が寄生してるかもしれない人間の「推し変」はおかしいってことなのかもしれない。
たとえばシリアルキラーが虫も殺せないくらいに変わってしまう変化なら、それはたしかに異常事態だ。
「なら」
社さんは寄白さんになにかを耳打ちした。
「わかった。近くで確認してくる」
社さんはそのあとにエネミーにも耳打ちした。
「わかったアル」
社さんがなにか新作戦を授けたのかもしれない。
寄白さんはそのまま山田のほうへと歩いていった。
反対にエネミーはこの場に留まっている。
「楽しんでくれたか?」
寄白さんはイベントの主催者のごとく山田に声をかけた。
「こ、これは妹殿。これは妹殿が私めのために」
山田はデッドボールを受けてもしっかりとガチャガチャを捕球していた。
寄白さんとは意外と良いバッテリーなのかもしれない。
「そう。それにまだあるぞ。これは私が独自入手したとある動画だ。観たいか?」
寄白さんはスマホを掲げて画面に触れた。
「な、な、な、なんでしゅか? あひゃー!! た、繰殿ー!!」
「どうだ。しずる感あるだろ?」
「は、はひっ!! しずってます」
「お姉の指と指が絡まってるだろ?」
「は、はいっ」
「お姉が手を洗ってるAMRSだ」
寄白さん、まだ変化球を隠し持ってたのか。
泣く泣くストレートを諦めざる負えなかったんだな。
山田やはり手ごわい。
「今度、録音自由なお姉による朗読会を開いてやる」
寄白さんは、君だけのために的なニュアンスでいった。
「な、なんと」
「お姉に手洗いを実践してもらったあと、お姉にインフルエンザ予防の注意点を読んでもらうってのはどうだ? インフルエンザしか勝たんだろ?」
それってインフル最高って意味じゃん……免疫系統やられてるじゃん。
「マ、マジっしゅか? 僕も手の洗い甲斐があるでしゅ」
「山田。あんたの本当の望みはなんだ?」
おっ、話題を変えた。
「それは。い、妹殿の、こ、公式お兄ちゃんになることでしゅ。あるいは非公式お父さんでもいいでしゅけど」
また、ややこしいことを。
とりあえず俺らは歳も同じ同級生だ。
山田のやつ校長に接近はしたいけど完全な彼氏ポジションにはいきたくないんだな。
寄白さんがこっちを見た。
それが合図のようにエネミーはテクテクと寄白さんと山田にいる場所まで歩いていった。
「おい、山田」
エネミー。
いきなりのタメ口。
いや、まあ、そういうやつだけど。
「は、はひっ? ぬはっ。ばっきゅん!!」
「うちは真野エネミーアル」
「でっくしゅん!!」
山田。
また、大げさなくしゃみをしやがって。
すでにインフルか? なんとなく免疫力強そうな気がするけどな。
しかもガチャガチャ開ける前に飛んでったぞ。
寄白さんが腕によりをかけて(?)作った『保健だより』のフラゲの三月号もコンピレーションバージョン三月号も山田に一度も見られることもなく終わった。
これは寄白さんのメンタルが心配だ。
「い、妹殿、こ、こちらのかたは?」
「私の友だちだ」
「な、なんとそうでしゅか。こ、これは。これは。テヘ」
山田のやつエネミーになびいた。
あの娘もかわいいし、この娘もかわいい、しょうがないから「箱」で推すかってやつ。
なんて変わり身の早い。
これどうなんの?
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