第356話 同時進行


俺とエネミーはまた、かたづけを再開した。

 三年カップルが揉め事をおこしていった場所で遊んでたんだからしょうがないといえばしょうがない。

 ただ、ほとんどの物はエネミーが体育館倉庫から勝手に持ってきたものだけど。

 山田は山田で飛んでいった「タグトッツオ」の「カイロ」を拾って「カイロ」に息をフーフー吹きかけ砂を払ったあとクッキー缶に収納した。

 寄白さんがホールインワンさせた使い捨てカイロの真横に「カイロ」きちんと並べている。

 そのままトコトコ歩いていき転がっていたガチャガチャのカプセルを手にとった。

 クッキー缶のなかでガチャガチャのカプセルが入りそうなスペースを探っている。

 『保健だより』フラゲ三月号もコンピレーションバージョン三月号も読まれる気配がない。

 山田、クッキー缶の整理に余念がないな。

 俺は山田から視線を外し目的の場所を視界にとらえた。

 背後でゴロゴロ音がしている。

  

 山田はあの後なにを思ったのかエネミーに脇目もふらず寄白さんに向かってファッション磨きの手伝いをしてほしいと願いでた。

 校長ならファッションに詳しいけど、寄白さんの私服はちょいダサ……。

 山田はエネミーに出会ってカッコいい自分を見てもらうにはファッション変えるしかないと思ったみたいだ。

 ファッションがイケてれば――山田、かっこいいアル。となる算段らしい。

 高二男子の考え。

 なんて浅はかな。

 単純すぎる。

 ぐふっ!! だが俺とたいして変わらない気がする。

 軽く俺もダメージを負う。

 スポーツ、音楽、勉強で突出したスペックがない場合にそこから一歩抜け出すにはファッションしないという思考回路。

 けど、あの三年カップル、ほんと戻ってこないな。

 俺はライン引きを後ろで転がしている。

 エネミーは両手いっぱいにバトンだ得点のカードなんかを持ったまま体育館倉庫の前についた。

 

 「んでいつにするんだろ?」

 「それは美子と雛が考えるアルよ」

 「だよな~」

 エネミーと初対面の山田は社さんの思惑どりまんまとエネミーを好きになった。

 山田が初対面の相手じょしに出会ったとき山田がどんな行動をおこすのかを探っていた。

 社さんいわく、妖精が寄生している人間には身体的あるいは心理的変化のトリガーがあるかもしれないってことだった。

 

 ただ山田が寄白さんにファッションを磨きを依頼したことで山田を観察できる機会が増えたことはたしかだ。

 棚ボタ。

 山田って校長グッズを大切にしてるし啓清芒寒けいせいぼうかんにも興味を示してたし、それでいながらエネミーにも好意を抱くってのは社さんのいうとおりで山田のなかでなにかしらの変化がおこってるみたいだ。

 百歩譲って啓清芒寒けいせいぼうかんの娘は校長に似てるから校長に興味を抱くのは理解できる。

 ただエネミーだ。

 ぜんぜん雰囲気が違う。

 それに山田も山田で廊下で見たときの異様な感じが抜けてる気がした。

 寄白さんと社さんは、芝生のうえで山田のファッションチェックをどうするのかの会議をしている。

 

 ああ、でも麻雀牌マージャン縦縦横石でグリった脇腹いてーな。 

 持続可能サステナブル社会(?)は侮れねー。

 

 「エネミー。俺はライン引き、奥に置いてくるから、バトンとかたのむぞ」

 「わかってるアルよ」

 

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 寄白はスマホを耳にあてた。

 「九久津。そろそろ準備してもらっていいか?」

 『俺はいつでもいいよ』

 「さっき私が連絡したあと雛きいたんだけど、今日、美亜先輩が学校にきてたって」

 『美亜先輩ずっと見てなかったな。アイドル活動で忙しいとかじゃないの?』

 「かもしれない」

 『よく考えてみれば。俺が美亜先輩に最後に会ったのって”うぶめ”と戦ったあの日だ』

 「それって雛が大怪我した日?」

 『そう。ってことは雛ちゃんも美亜先輩に会ったのはあの日が最後だろうね』

 「だろうな。美亜先輩ずっとe-ラーニングで勉強してたみたいなんだけど。わざわざお姉に会いにきたってのはなにかあったのかも」

 『学校のことなんじゃないの? 今、雛ちゃんは?』

 「私がお姉に伝言を頼んでる。このあとに私たちが動くことを伝えてもらってる」

 『そっか。沙田は?』

 「今、エネミーと体育館倉庫にいってる。でも、もちろんさだわらしにも手伝ってもらうよ」

 『わかった』

 「九久津。体調は?」

 

 『ああ、問題ないよ』

 「じゃあ、頼んだ」

 寄白は通話を終えるとそのまま十字架のイヤリングのひとつを手にとった。

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 俺とエネミーが体育館倉庫に備品を戻して帰ってくると社さんはいなくなっていた。

 けど、今日、山田、いや妖精のことでなんか進展があったのか? でも社さんが山田の微妙な変化に気づいたんだから収穫アリか。

 しばらくすると社さんも戻ってきて、エネミーとふたりで「六角第一高校いちこう」をあとにした。

 そのあいだも山田はクッキー缶を石と石のあいだに戻しながらちょいちょいエネミーをチラ見していた。

 俺と寄白さんはいったん教室に戻ることになった。

 「最初はお姉が山田にじきじきに注意して治まったんだけ最近になってまた動きはじめたってこと」

 から俺が転校してからしばらくは静かだったのか。

 山田、七不思議制作員会のときは上から目線だったけどそんなヤバい奴ではなかったし。

 「――心が渦巻きましたって言ってたな」

 うずく通りこして渦巻いたってのは我慢の限界だってことだな。

 「さだわらし。逢魔おうまが時。さあ、いくか?」

 「教室でしょ?」

 「な、わけないだろ」

 え? どこへ? で、す、か? じゃあ、四階? 今日は四階に異変なしだったはずですけど。

 「夕暮れ間近は要注意っていっただろ」

 あ、あれに意味あったの? またどこかに連れていかれるの? 顔での化学反応とかコールドだとか脇腹グリったりでズタボロなのに。

 「山田は?」

 「やつはクッキー缶を整理しだしたらから解放。もう自由だ」

 の、野放しですか?

 「そ、そうなんだ」

 「さだわらし。世の中はザコも小ボスも中ボスもラスボスも裏ボスも同時に動いてるんだ。山田がクッキー缶を隠してるときだっていろいろなものが動いてるんだ」

 たしかに。

 ザコ倒したからって次は小ボスで次は中ボスって順番に出てくるわけじゃない。

 場合によってはいきなりラスボス、エンカウント、全滅ってもありえる話だ。

 「警察だって全員がひとつの事件を捜査してるわけないだろ?」

 「だね」

 でも、やっぱり行先は教えてもらえないのね。

 ん? 寄白さんが答える前に別の誰かの話声がきこえてきた。

 

 あっ!? 三年カップルが今さら戻ってきた。

 薄暗くなりかけ雰囲気を利用してなのかどうか知らんけど手、繋いでるし。

 仲直りハッピーエンドかよ!!

 こっちはこれからどっか連れていかれるっていうのに。

 

 俺は想像だけであんなに楽しそうにしてる山田を無性に応援したくなった。

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