第373話 結果報告


壁にあるデジタルの時計が示している時刻。

 東京【23時12分】 シンガポール【22時12分】 パリ【16時12分】

 ロンドン【15時12分】 ニューヨーク【10時12分】 ロサンゼルス【7時12分】 ホノルル【4時12分】 

 ――大統領はアンドロメダで被害を受けた地域の現地視察をおこなっています。想像以上の自然の猛威に言葉を失っているということです。

 ――水がそこの屋根まで押し寄せてきたということですか?

 ――はい。私の背の高さ以上の洪水です。また強風によっては屋根が飛ばされ約百万世帯で停電、復旧の見込みは未定。なお大統領は今回のハリケーンアンドロメダに対して数千億円規模の復興予算を申請する見込みです。ただ大統領自ら現地に出向いているのはパフォーマンスだという一部の声もあります。

 ――中間選挙に向けての票集めということですか?

 ――はい。G7のオンライン会議を欠席しての行動にも賛否の声があがっています。倒壊した家屋を前に大統領が現地入りしたところでなにか意味があるのかというとです。これから破産しかねない企業も現れるなか大統領の行動にいっそうの慎重さが求められています。現場からは以上です。

 ――なるほど。市場もアンドロメダの影響でNYダウは一時800円超の下げを記録しています。ナスダック、S&P500もともに下げですが建設系の株には買い注文が入っているようです。

 金と白の髪の毛が混ざった中年のキャスターが万年筆でトントンと机を叩きながらとマイクを持った女性リポーターとのやりとりが通訳される。

 画面を通じて米国の被害が世界中に伝播されていく。

 (これ以上被害が広がらなければいいが……すでにダウと日経平均が連動してしまっているし。暗号資産のアルトコインまでダウに引っ張られている。円安も進み市場介入も視野に入れなければならないか)

 鷹司の机はつい十分前とは違い腕を広げて寝ることができるほどの空きスペースがある。

 片隅には週刊の漫画雑誌ほどの厚みの紙の束がある、それらはさきほどまでここ一帯を支配していた機密文章の資料たちだ。

 鷹司は紙の束を横目に一枚の紙を手にしている。

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■六角市の守護山南部のアヤカシ保護区域への何者かの侵攻→防衛省が対応に当たる。

・レッドリストの唐傘お化け5体死亡→座敷童の頭の鋳型から、唐傘お化けの子どもが誕生し絶滅は回避。

(※保護区域の負力値ミアズマレベルの数値が上がらなかったのは唐傘お化けの生き残りがいたためだと推察できる)

・全身を踏みつぶされて原型を留めない魔獣型の妖精(滅怪によって消されていて現場の解析は不能)。

 ※(G7でも魔獣型の妖精が大量発生している国がある。※寄生パラサイト妖精フェアリーという魔障に注意する→場合よっては広域指定災害魔障の可能性を考慮する)

・魔獣型の妖精≒悪魔 、(一般的な妖精)≒天使 ※座敷童も同じ属性

・全身が破裂した二体の熊(能力者の能力だと考えられる)。

・週末時計が零時になるとアヤカシが爆発的に増えるグレイグーが発生する。

→各国はカタストロフィーに備え負力値ミアズマレベルの常時監視に当たっている。

→終末時計の針を動かす可能性の高い新約死海写本に注意。

※【殺戮の魔王。戴冠たいかん間近】

SDGsエスディージーズの0番

■ヨルムンガンドの両牙に楔状欠損という凹みがある。

(三体の見分けかた。バシリスクの鱗は薄っすら青みががかっている。ヨルムンガンドの鱗は薄っすら白みがかっている。ミドガルズオルムは薄っすらピンクがかっている。帰巣本能、新月に活発化する特性がある)

 バシリスク、ヨルムンガンド、ミドガルズオルムを拘束、指示できる者の存在?

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 鷹司が手にしているのは今日の夕方からの要点が渾然一体となったものだ。

 (まとめるとこんなところか。まさか一枚に収まるとは)

 鷹司はソファーで眠っている座敷童とその座敷童の頭のなかで寝ている唐傘お化けの子どもを一瞥した。

 (アヤカシであれ人間であれ世界中の子どもたちは何が起こっていても気にする必要はない。すべては大人たち責任なんだから)

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 子子子こねしは鷹司の秘書官が急遽用意したホテルの一室でスマートフォンを耳に当てている。

 「社禊やしろみそぎさんのお携帯でんわでしょうか?」

 『はい、そうですが』

 「夜分遅くに申し訳ありません。ヨリシロラボラトリーの者ですが」

 『ああ!? すみません。さきほどの電話はもしかして?』

 「はい。私だと思います」

 『ちょうど出先でして電話に出そびれてしまいました。見かけない電話番号だったもので折り返すのをためらってしまいまして』

 「お気になさらずに。鑑定依頼の結果のご報告をと思いまして」

 『は、はい』

 「正真正銘の純米大吟醸酒です。異物混入コンタミの可能性はありません」

 『ほ、本当ですか!? あ、ありがとうございます』

 「お急ぎのようでしたのでまずは口頭でお知らせしようと思いまして。後日、正式に鑑定書をY-LABから送付いたしますのでお待ちください」

 『わかりました。よろしくお願いいたします。悶々とした日々を送っていましたがこれで一安心です。それに死者、あっ、失礼いたしました』

 「死者というのはシャドウシステムの影側のアヤカシのことですね」

 『ご存じなんですか?』

 「はい」

 『さすがはY-LABの研究者のかたですね。関係者にとっては六角市のシシャはそれなりに有名なのですが』

 「……差し支えなければ今回、Y-LABにお神酒の鑑定を依頼した経緯をお聞かせ願えないでしょうか?」

 『それは、シャドウシステムの影側、つまり負力を受ける側のの太ももの裏に気になる痣を見つけまして。椅子で擦ったとのことなのですがもしやと思えば思うほど気になってしまって』

 「なるほど。仮にシャドウがブラックアウトするような病変ちょうこうがあればそれは全身に波及およびます。身体の一部分に現れた痣ならブラックアウトに直結する病変とは認められません。単純な擦過傷の類だと思います。心配には及びません」

 『そうですか』

 「ここ最近、生まれたシャドウということなら活発な時期ですのでそういうこともあると思います」

 『ずいぶんとお詳しいかたで、あの、その』

 「あっ、申し遅れました。私、Y-LABに赴任してきた魔獣医の子子子こねしたけると申します」

 『ああ!? 聞いてます。聞いてます。子子子こねし先生』

 「えっと、それはどういう……」

 『寄白さんから話はきいています。着任早々子子子こねし先生に解析してもらえるとは』

 「そういうことでしたか。寄白さんともお知り合いで?」

 『はい。今回特別に鑑定をお願いできたのも寄白さんのお力添えでして。子子子こねし先生本当にありがとうございました。これからもよろしくお願いいたします』

 「いえ、私のほうこそ。六角市についてご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」

 『はい。機会があれば六角神社にも一度おこしください』

 「職場の整理などが終わりましたら、ぜひ、伺わせていただきます」

 

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